國體アヘンの正体 ( 落合・吉薗秘史 2)を読む前に  阿片王里見甫VOL.1

佐野眞一著「阿片王 満州の夜と霧」にでてくる主人公(?)里見甫とはどのような人物であったのか。

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(引用)・・・・・・・・P187

里見はこれを持って南京の下関駅へ行きなさいと言った。

駅のコンテナ荷物担当者にこれを見せると阿片を引き渡してくれた。

阿片は南京特務機関のトラックに積みかえられ、市の戒煙総局に運ばれた。

「これが阿片仕入れの仕組みでした。これでもわかるとおり、里見さんは一切、現金には触れておりません。里見さんを阿片の密売人のように言う人がいますが、私の知る限り、阿片の売上金に直接手をつけたことはありません。そのあたりが児玉機関のチンピラ集団とはまったく違うのです。」

南京市の財政はこれによりたちまち好転した。

「里見さんは戒煙総局の顧問として桁外れの俸給をもらっていましたから、人に金をくれてやることなんかくそとも思っていませんでした。だから里見さんに金をせびりにくる連中が後をたたなかった。里見さんの厄介にならなかった軍人さんはひとりもいなかったと言ってもいいんじゃないでしょうか。東條さんを叱りに行ったというのは有名な話しです。里見さんから金をもらっているから東條さんといえども文句はいえない。

軍が経済攪乱工作でニセ札を作ったとき、みんな怖がって使おうとしなかったのに、里見さんが軍の身代わりになって、警察に捕まったことがあります。そういうときでも最後まで泥を吐かなかった。そんなわけですから、里見さんの前に出ますと、岸信介も頭があがりません。佐藤栄作も頭があがりません。里見さんというのはむちゃくちゃな事が好きなんです。正しかったらまっすぐ捨て身になって行けということです。

里見さんはよく「人間なんて欠点のないやつはいないよ。困ったときに困ったと言わねばダメだ。いつも理路整然としているヤツはおかしいんだ」」。

 

里見は「中国共産党の調査には金がかかるだろう。この金を君たちのほうで自由に使ってくれ」といって200万円の大金を渡した。

徳岡(里見の阿片取引のパートナー)はその金で中共関係の書籍を25万冊買い込んだ。

いま私(著者)の手元に徳岡が死の間際まで大学ノートにびっしり綴ったメモのコピーがある。ほとんど死の床で書いたのであろう。字も文脈も乱れ、判読するのは著しく困難だが、行間に里見への敬服の念があふれていることだけはよくわかる。

阿片で得た資金を里見が私することは絶対になかった。里見は物欲というものは全然なく「おちかさん」という女中ひとりを通いで雇い、ピアスアパート2階のちいさな部屋一室を家にしていた。来るもの拒まず、去るもの追わずの態度は一貫し、金をせびりに来るものには湯水のようにくれてやった。

 

「松井さん、あなたは兵隊だろう。兵隊さんに国づくりなんてできません。私がやってやるから」と言って満州建国の舞台装置は全部里見さんがやったんです。

満州国の形が一応できると、これからは通信の時代だと言って、国通をつくりそのトップに就いた。国通が軌道に乗るとまた愉快なことにこんなことを言い出した。

満州国を作ったはいいがしげしげ見ると日本の内地におったら使いもんにならんような連中ばかり連れてくる。こんな連中をはやく追い返さんと、日本より程度の悪い国になるだけだ。」そういって、この連中の首を全員切れというメンバー表をつくった。

その筆頭になんと里見さんの名前が入っていた。「こういう人間がいるから時代遅れなんだ」と言って自分は国通に残ろうとしなかった。

(引用おわり)・・・・・・・・・・・・・・

 

その後、電通と同盟の間で、電通は通信とニュース写真に関する事業を同盟通信社に委譲する、電通は広告専業会社となり、同盟の広告部門を引き継ぐといった内容を主旨とする契約が取りかわされた。
戦後、同盟は共同通信時事通信に分割された。一方、広告専門会社となった電通には里見の息がかかった元国通の社員たちが戦後、大挙して入社し、今日の電通の隆盛を築く礎となった。国通を立ち上げた里見は、現在の日本のメディア体制の基本的枠組みを満州でつくったともいえる。
「阿片王」といわれた里見の業績は、アヘン販売による独占的利益を関東軍や特務機関の機密費として上納する隠れたシステムをつくりあげた点に目が向けられがちである。だが、現在への影響力でいうなら、それよりもむしろ、今日の共同通信電通を発足させる引き金となった国通設立に尽力したことがあげられる。
見逃してならないのは、ここにも、満州の地下茎が戦後日本に延び、その上に現在の日本の通信、広告の帰趨をなす陣容のプロトタイプが築かれたことが瞥見できることである。
里見遺児の〝芳名帳〟には、国通設立の過程で里見が知遇を得た鈴木貞一、古野伊之助、松井太久郎といった男たちの名前が登場する。
そしてその人脈は、里見が満州の中枢部に食い込むに従って、やはり〝芳名帳〟に名を連ねる岸信介、難波経一(満州国禁煙総局長)、古海忠之(満州国総務庁次長)などのエリート官僚から、阿片工作に密接にからむことになる楠本実隆、塩沢清宣、岡田酉次、岡田芳政らの軍人に、不気味な翼を伸ばしていくことになった。

『阿片王』p.118~119

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